感情心理学を学ぶ駆け出し研究者兼マーケターのブログ

大学院と組織開発ベンチャーに属しながら感情心理学を肴にする日々の苦悩と葛藤を綴るブログです。27歳ですが37歳に見られます。

「日本人」とは何者か?【大人の教養大学】で話してきた@東大本郷キャンパス

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Facebookイベントページより

「日本人」とは何者か?

そう聞かれたら、みなさんはどんな風に答えますか?

 

日本人だけで会話していたらあまりない観点かもしれませんが、海外の大学に通っていた・海外の会社で働いていた方などはもしかしたら会話なさったことがあるかもしれません。

いま2020のオリンピックに向けて、インバウンド需要に向けて、海外の方と接する機会が多くなってきた方もいらっしゃるかもしれません。

そして、そもそもこれから働いていく中で、日本人とだけしか一緒に働かないということが考えられないような時代になってきている、、、そんな議論が増えてきました。

 

そもそも「日本人」ってなんなのでしょう。 

 

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ということで、そんな内容について対話するイベント、

「日本人」とは何者か?〜どこから来て、どこへ向かうのか〜(主催:大人の教養大学)に参加しました。@東大本郷キャンパス

→イベントページ:「日本人」とは何者か?〜どこから来て、どこへ向かうのか〜【大人の教養大学】

 

『大人教養大学』では全員が事前に課題本を読んでくることを必須にしているらしいのですが、今回の課題本は『NHK出版 100分de名著 「日本人」とは何者か?』です。

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参加した自分なりの「日本人」を考える理由は、以下の3つです。

・そもそも自分自身が何者か分かっていなければ(何を持っているか、何を知っているかなども含む)、他者や他国に貢献することもままならない

(得てして、どんな存在なのかを知らないと相手に対してギブできるものも分かりません)

・自己認知を追求することで、他者と関係性構築をしやすくなる

(人と人が会話する上で一番心地良くなる要因の一つに、「自己認知の深度が同様」というのがあると思っています。これがあまりにも違うと、そもそも言語がどうとかいう問題以前に会話にならないかと。)

・自分たち、そしてこの国の未来を考えていく時に、過去を振り返ることが必須。「日本人」を考えることは、ひいては過去と未来を探求しにいくことかなと

(今を生きる人間1人の経験や知識は微々たるものですが、過去にはなんとも多くの方々のご経験やお考えがあります。それを勉強させていただける、自分の糧の1つにさせていただけるというのは、とても大事なことだなと。)

 

では、このイベントの中身について詳しく説明します。

 

 

イベントは、

 1. 課題本に関しての情報提供

 2. 選択したテーマについて、チーム毎に対話

 3. 2の対話内容を全体に発表した後に、それを元に全体対話

この3部構成でした。

 

以下、その中身を可能な範囲で記していきます。 

 

『大人の教養大学』からの仮説提示

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まず最初は、『大人の教養大学』を運営されている市野さんからお話。

『大人の教養大学』が果たす役割や、ご自身で『大人の教養大学』を始めた理由などをお話されておりました。

 

なお、『大人の教養大学』について、市野さんはこうおっしゃってますね。

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課題本に関しての情報提供

市野さんのお話のあと、全員で自己紹介を行い、それから課題本に関しての情報提供が始まります。

 

「いき」とは「日本数寄」である - 九鬼周造『「いき」の構造』

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まず最初は、 九鬼周造『「いき」の構造』から。

発表してくださるのは、茶道 江戸千家の御家の方。(ちなみに、私が以前学んでいた茶道も江戸千家でして、まさかお会いできる日がくるとは)

 

川上さんの資料を拝借しながら本の中身を簡単に書き記すと、、、

 

この方が、九鬼周造さん。

茶道を学ぶ者・学んでいた者であれば誰しもが知る『茶の本』を書かれた岡倉天心が父親代わりだったこともあるという、なんとも数奇な運命を辿った御方。

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で、彼が提唱したのが「いき」。

日本人の美意識は「いき」であると語っています。

西洋哲学を思想の根本にしつつ、それらと日本の哲学を比較した時に、日本には「いき」があるとしているのです。

 

で、最終的に九鬼さんが結論づけた「いき」とは、

・「媚態」「意気地」「諦め」の3要素からなり、それは『垢抜けて。張りがあり。色っぽい』ということである

・生き、息、行き、息気に由来し、諦めを得た媚態が意気地の自由に精神的に生きること

だそうです。なんとも難しい概念ですね。。

 

川上さんの資料に「いき」な姿というページがありましたが、これを見ると確かに日本人の「いき」なる感覚というか感性はあるのかもしれませんね。

私の家系が建築をお仕事にしている人が多いということもあって、幼少期から大工さん、職人さんとお話ししたりお仕事を見る機会が多かったのですが、彼らも『「いき」な仕事をしたいんだよな』と言っていたことをふと思い出します。

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「いき」についてはこんな触りで終え、次にいきます。

 

心の中の「ウツホ」を見つめよ - 河合隼雄『中空構造日本の深層』 

f:id:yuki_kitamu:20171209202135j:plain次は、河合隼雄『中空構造日本の深層』です。

発表者を交代して進んでいくわけですが、これまたなんぞやという言葉ですよね。『中空構造』って。

 

本の中には、こんな風に書いています。

「中空構造」とは聞き慣れない言葉ですが、「中空」とは、外側だけがあって中ががらんどうの構造のことです。つまり、太古の昔から発展してきた日本人の思想や宗教、ひいては社会構造の原型が中空である、とするのが本論の趣旨です。

 

そもそもこの本を書かれた河合さんは心理学者で、日本人で初めてユング派分析家の資格を得た方。もともとはフロイトが創始した精神分析学から離脱したユングが作った流派「分析心理学」、その専門家ですね。

彼はもともと西洋でその考え・技術を学び日本に帰ってくるわけですが、なかなかその手法が日本人に合わないことに気がつき、こんなことを考えたそうです。

ーーー欧米人は欧米が産んだ文化のなかで生活しているのだから、当然ながらその心のあり方も欧米のある種の「枠組み」と深いところでつながっている。ならば、日本人の場合も同じことが言えるはずではないか。日本人の深層心理を知るには、日本の文化を知らなければならない。

 

そこで彼は、『古事記』を読み解いていけば、日本の精神性がわかると考えました。

それを、彼はこのように記しています。

「日本の神話においては、何かの現地が中心を占めるということはなく、それは中空のまわりを巡回している」

古事記には神が多く登場するわけですが、その中に三神が三組出てくるのです。

そのそれぞれの組にて、全て共通するのが、三神のうち二神は多くの記述があるにも関わらず、一神は「何もしない名前だけの神」なんですね。

 

そして、その思索の末、この日本という国に対してこんな考えに至ります。

「我が国が常に外来文化を取り入れ、時にはそれを中心においたかのごとく思わせながら、時がうつるにつれそれは日本化され、中央から離れてゆく。しかもそれは消え去るのではなく、他の多くのものと適切にバランスを取りながら、中心の空性を浮かび上がらせるために存在している。このようなパターンは、まさに神話に示された中空均衡形式そのままであると思われる」

 

こちらではかなり端折っていますが、イベント中のこの時間では、こんな内容を詳しく説明してくださっていました。

 

「無分別智」を活用せよ - 鈴木大拙『日本的霊性』

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そして次に移ります。

鈴木大拙『日本的霊性』について。(あれ、プレゼン時のお写真がない、、、!資料を少し拝借します。)

 

彼は仏教、特に禅をアメリカに伝えた方として有名ですが、この『日本的霊性』を記した時代、戦後直後あたりの彼の考えを記すと、こんな風に要約できる、、と本には記されています。

「日本精神にしても大和魂にしても、それは日本人の無意識を自覚せずにそのまま表現した言葉である。だが、もうこの戦争と敗戦を区切りに、日本人は覚醒しなければいけない。何に覚醒するのか。自分が抱えてきた無意識の根源にある原理ーーーすなわち霊性に覚醒せねばならない」

 

で、そもそも「霊性」が何か、簡単に記すと「精神と物質との奥にあるもの」だそうです。すごく難しいですが、このまま進めましょう。

で、霊性には「大地性」「莫妄想」「無分別智」という3つの特徴があると言っています。それぞれの意味は、プレゼン資料を拝借しましょう。

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 で、最終的には、こんな風に結論づけています。

時代の流れによって日本人は流されやすいがゆえに、「大地性」「莫妄想」「無分別智」をもつ『日本的霊性』で、物事を正しく判断していく必要があります。

 

こんなお話をもっと詳しくしていただいて、情報提供は終了です。

  

休憩

f:id:yuki_kitamu:20171209202334j:plainなかなかハードな内容だけに、脳内はまあまあな疲れ具合。なので参加者全員で神楽坂の和菓子で糖分補給のお時間を挟みます。

 

テーマごとに分かれて対話 / 対話内容を発表の後、全体対話

情報提供が終わると、ついに全員で対話する時間です。

今回のテーマは、上記の3つの本について。それぞれ話したいテーマを決め、その人たち同士で3〜4人のチームになって対話を開始します。30分くらい話したでしょうか。

それが終わると、各チームからその時間で話した内容をシェアしてもらって、そのまま質疑応答・フリートークに入っていきます。

 

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こんな風に発表してから、、、

 

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 ディスカッション。

 

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また次も発表して、、、という流れです。

 

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白熱して、途中からは全員立ちました。

 

「日本人」を考えることは、自分自身と対話するということ。

さて、そんなイベントを過ごしたわけですが、「日本」というものを捉えたり学んだりすることが比較的多かった我が身としては、こういう風に学んだものをがっつり人と話してみるというのはとても刺激溢れる時間でした。

今振り返って思うことをつらつらいくつか以下に備忘録がてら。

 

■「日本人」についての議論に結論はないし正解もないものの、それを問い続けることで自分自身がどんな存在なのかを認識する1つの手立てになる

■そもそも国境もだんだんと曖昧になってきている中で(仕事や生活や人の関わりという意味で)、「日本人」というものを問うだけでなく、自分の住む都市や地域、ひいては家系といったかなり細かい分類にて○○とは何者か、を問い始めることも大事なのではないだろうか

■これら3つの本の作者たちは、自分なりの『世界の狭間』みたいなものを認知して仮説を立て、独自の理論に立っている。こんな考え方を、誰もがする時代、もしくはしなければならないような時代がやがてやってくるのではないか。もしくは、そんな風に考える者と考えない者での大きな二極化が徐々に進行するのではないか。

■MITの石井教授が言及しているビジョンドリブンとアウフヘーベンの話に完全にリンク(MIT石井裕教授が提言。「ICT敗戦国」日本を生きるクリエイターに必要な2つのこと|WIRED.jp)。そもそもこういう内容を認識していなければ、他国の方とのアウフヘーベンを生むことは難しいように思うし、この思考は100年経っても大切なものなはず。だがしかし、1つ感じるのは日本人という大きな括りで見るがゆえに個人個人を見ることをしなくなってしまうこと。結局、1人1人の人間ごとに全て性格も性質も感性も違うのだ。

岡本太郎氏が『日本の伝統』の中で『文化はその時代ごとの背景を取り入れて変化していかねばない』と記している通り、「日本人」が何者かを仮に特定してしまって考えをやめてしまったら、それは日本という文化が止まることを意味するのではないか。

■「日本人」という存在を考えるのも大事。そして、そもそもその前、「日本人」になる前を思考することもとても大事だなと改めて感じた。人類の起源から辿ることで、見えてくる「日本人」像はまた異なるものになるような気がする。

 

 

12月23日(土)に次回実施『君たちはどう生きるか』or『幸福論』 

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さて、そんな【大人の教養大学】、今度は今月23日(土)に開催予定らしいです。

幸福論。そして、 君たちはどう生きるか【大人の教養大学】#5

私はどうしても参加できないのですが、『君たちはどう生きるか』は最近マンガ化されてどんな本屋さんでも一番前で売っているくらい流行っていますよね。

ご興味のお有りな方は、ぜひ参加してみてください。

 

 

【補足】

イベント時のホワイトボードをいくつか貼りますね。 

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